東京地方裁判所 昭和58年(ワ)9422号 判決 1987年10月21日
原告
村田榮
右訴訟代理人弁護士
須田清
同
伊藤一枝
同
岡島芳伸
同
高城俊郎
右訴訟復代理人弁護士
古内眞也
被告
株式会社山手書房
右代表者代表取締役
高瀬広居
被告
高瀬広居
右両名訴訟代理人弁護士
藤森功
被告
株式会社コスモポリタン
右代表者代表取締役
清野富夫
被告
清野富夫
右両名訴訟代理人弁護士
鈴木利廣
主文
一 被告株式会社山手書房及び被告株式会社コスモポリタンは、別紙(一)書籍目録記載の書籍の印刷、製本、販売及び頒布をしてはならない。
二 被告らは、各自、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和五八年七月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告らは、原告に対し、別紙(二)―一記載の謝罪広告を朝日新聞朝刊に別紙(二)―二記載の掲載条件で一回掲載せよ。
四 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
六 この判決は、主文第二項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主文第一項と同旨
2 被告らは、各自、原告に対し、二〇〇〇万円及びこれに対する昭和五八年七月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告らは、原告に対し、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日本経済新聞、サンケイ新聞、東京新聞及び埼玉新聞の各紙朝刊並びに夕刊フジ及び日刊ゲンダイの各紙に別紙(三)―一記載の謝罪広告を別紙(三)―二記載の掲載条件で各一回掲載せよ。
4 訴訟費用は、被告らの負担とする。
5 2につき仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(一) 原告は、昭和一七年(一九四二年)七月北海道小樽市で出生後、昭和二一年埼玉県に移転し、昭和四〇年明治大学を卒業し、昭和五二年(一九七七年)七月から当時参議院議員であつた福島茂夫(以下「福島議員」という。)の法定第二秘書として、昭和五五年四月から同第一秘書として勤務し、昭和五八年七月福島議員の参議院議員任期満了に伴い右第一秘書を退任し、現在、同県熊谷市所在の福島病院の事務長として勤務しているものである。
(二) 被告株式会社山手書房(以下「被告山手書房」という。)は、各種書籍及び印刷物の出版等を目的とする会社で、被告高瀬広居(以下「被告高瀬」という。)は、同社の代表取締役であり、被告株式会社コスモポリタン(以下「被告コスモポリタン」という。)は、書籍、雑誌及び新聞の出版及び販売を目的とする会社で、被告清野富夫(以下「被告清野」という。)は、同社の代表取締役である。
2 被告らの不法行為
(一) 被告山手書房は、昭和五八年七月二〇日、別紙(一)書籍目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)を出版し、本件書籍は国会内書店のほか東京都、埼玉県をはじめ全国の書店で販売された。
(二) 氏名権の侵害
本件書籍の著作者は「村田栄一」と表示されているところ、右著作者名は原告の氏名「村田榮」に酷似するものである上、本件書籍の奥書には右著作者の略歴として「元参議院議員第一秘書。一九四三年一〇月生まれ、埼玉県出身。明治大学卒業。一九七七年より参議院議員秘書となる。現在、埼玉県F病院事務長。」と記載されていて、これは、原告の略歴と一部は真実に合致し、一部は酷似している。右のような著作者名及び著作者略歴の記載を総合すれば、本件書籍がこれを見た一般読者をして本件書籍の著作者は原告であると誤認させることは明らかである。
しかしながら、原告が本件書籍を著作したことはなく、その出版を承諾したこともないから、本件書籍の著作者名の表示は原告の氏名を冒用するものであつて、これにより、原告の氏名権は侵害された。
(三) 名誉権の侵害
(1) 右(二)のとおり、本件書籍は、一般読者をして原告が本件書籍の著作者であると誤認させるものであるところ、本件書籍中には、別紙(四)記載のとおり、真実は原告が何ら関知しない事実であるにもかかわらず、あたかも原告が体験した事実であるかのように摘示した記述があり、右記述により原告の名誉は毀損された。
(2) また、本件書籍中には別紙(五)記載のとおりの各記述があるから、原告がこのような記述のある本件書籍を著作したと誤認されることにより、原告は秘書時代に知り得た事実を平気で暴露して秘密を守らない人間であり、また、虚偽の事実等を取り混ぜて面白おかしく記述して他人の人格、名誉を平然と誹謗、毀損する人間であると評価され、その名誉を毀損されることは明らかである。
3 被告らの責任
(一) 被告らは、本件書籍の出版に関し、被告山手書房は発行所として、被告高瀬は発行者兼被告山手書房の代表取締役として、被告コスモポリタンは企画協力者として、被告清野は執筆者兼被告コスモポリタンの代表取締役として、各自、原告が本件書籍の著作者でなく、本件書籍の出版を承諾したこともないことを知りながら、共謀の上、原告を本件書籍の著作者と表示してその氏名を無断で使用し、もつて、原告の氏名権を侵害し、かつ、原告の名誉を毀損した。
(二) 仮に被告山手書房及び被告高瀬において原告が本件書籍の著作者ではなく、本件書籍の出版を承諾したことがないことを知らなかつたとしても、これにつき同被告らには次のとおり過失がある。
すなわち、書籍の出版に当たつては、だれが著作者であるか、あるいはだれが著作者であると目されるかは重要な事柄であり、したがつて、出版に当たる者は、著作者の出版意思、あるいは著作者であると目される者の著作者として表示されることの意思を確認すべき義務があるといわねばならない。殊に、本件書籍は、その中に右2(三)のとおりの内容の各記述があつて、著作者と目される原告の国会関係者、地元関係者らとの社会的関係を失わせる可能性があつたのであるから、より一層、原告本人の出版意思ないしは著作者として表示されることの意思を確認すべき義務があつたといわねばならない。
しかるに、被告山手書房及び被告高瀬は、本件書籍の著作者「村田栄一」が原告を指すものであることを十分承知しており、原告と直接連絡をとることは十分可能であつたにもかかわらず、本件書籍を出版するに際し、原告の出版意思ないしは著作者として表示されることの意思を何ら確認しなかつたのであるから、同被告らに過失のあつたことは明らかである。
4 損害
原告は、被告らにより前記のとおり氏名権及び名誉権を侵害されたことにより、福島議員をはじめ多くの国会議員、議員秘書、友人等との間に培われた信頼、友情を破壊され、原告の勤務する福島病院所在地の地元の人々にはその人格を疑われて好奇の目で見られ、また、同病院職員の原告に対する信頼も危うくなるなど原告の受けた精神的苦痛は甚大であり、原告の名誉を回復し、かつ、精神的苦痛を慰謝するには、被告らが請求の趣旨3記載のとおりの謝罪広告の掲載と少なくとも二〇〇〇万円の支払をする必要がある。
5 結論
よつて、原告は、被告山手書房及び被告コスモポリタンに対し、氏名権及び名誉権に基づき、本件書籍の印刷、製本、販売及び頒布の禁止を求め、被告らに対し、氏名権及び名誉権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき、各自、慰謝料二〇〇〇万円及びこれに対する不法行為の日である昭和五八年七月二〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、原告の名誉を回復する適当な処分として、請求の趣旨3記載のとおりの謝罪広告の掲載を求める。
二 請求原因に対する認否
1 被告山手書房及び被告高瀬
(一)(1) 請求原因1(一)の事実のうち、原告がその主張のように出生し、大学を卒業したこと、福島議員の秘書をしていたこと、現在福島病院の事務長として勤務していることは認め、その余は否認する。
(2) 同1(二)の事実のうち、被告コスモポリタンの営業目的は否認し、その余は認める。
(二)(1) 同2(一)の事実は認める。
(2) 同2(二)の事実のうち、本件書籍の著作者名が「村田栄一」であること、著作者略歴が原告主張のとおり記載されていることは認め、その余は否認する。
(3) 同2(三)の事実のうち、本件書籍中に別紙(四)及び(五)記載のとおりの各記述があることは認め、その余は否認し、その主張は争う。
(三)(1) 同3(一)の事実のうち、本件書籍の出版につき、被告山手書房が発行所、被告高瀬が発行者兼被告山手書房の代表取締役、被告コスモポリタンが企画協力者、被告清野が執筆者兼被告コスモポリタンの代表取締役としてそれぞれ関与したことは認め、その余は否認する。
(2) 同3(二)の主張は争う。
(四) 同4の事実は否認し、その主張は争う。
(五) 同5の主張は争う。
2 被告コスモポリタン及び被告清野
(一)(1) 請求原因1(一)の事実のうち、原告が明治大学を卒業したこと、福島議員の第一秘書であつたこと、福島病院の事務長として勤務していることは認め、その余は知らない。
(2) 同1(二)の事実は認める。
(二)(1) 同2(一)の事実は認める。
(2) 同2(二)の事実のうち、本件書籍の著作者名が「村田栄一」であること、著作者略歴が原告主張のとおり記載されていることは認め、その余は知らない。
(3) 同2(三)の事実のうち、本件書籍中に別紙(四)及び(五)記載のとおりの各記述があることは認め、その余は否認し、その主張は争う。
(三) 同3(一)の事実のうち、本件書籍の出版につき、被告山手書房が発行所、被告高瀬が発行者兼被告山手書房の代表取締役、被告コスモポリタンが企画協力者、被告清野が執筆者兼被告コスモポリタンの代表取締役としてそれぞれ関与したことは認め、その余は否認する。
(四) 同4の事実は否認し、その主張は争う。
(五) 同5の主張は争う。
三 被告山手書房及び被告高瀬の主張
1 本件書籍出版に至る経緯
被告山手書房は、昭和五七年秋ころ、被告コスモポリタンの代表取締役である被告清野から「政治家の夜と昼」と題する政界の内幕物の執筆企画を持ち込まれた。被告山手書房としては、政界の内幕的事実の記述ということで慎重を期したが、被告清野から再三にわたり、同被告と原告とは飲食や遊興を共にする親密な関係であつて、本件書籍を出版するについては原告の了承を得ており、本件書籍の著作権を有する被告コスモポリタン及び被告清野が原告から本件書籍の出版につき一切を任されているとの具体的な説明を受け、その結果、昭和五八年七月六日、著作権者である被告コスモポリタンとの間において、著作者名を「村田栄一」、書名を「政治家の夜と昼」とする書籍を目的とする出版契約(以下「本件出版契約」という。)を締結し、本件書籍を出版したものである。著作者名を「村田栄一」としたのは、被告コスモポリタン側から原告が実名を出さないよう希望しているとの要請があつたためであり、また、著作者略歴についても同被告側から内容を知らされ掲載したにすぎない。
なお、被告山手書房の編集担当社員が昭和五八年六月二四日ころ原告及び被告清野と打合わせをするための機会を設けたが、原告は出席しなかつた。
以上のとおりであつて、被告らの間には原告が指摘するような共謀の事実は全くなく、しかも、被告山手書房及び被告高瀬は、原告が本件書籍の著作者ではなく、本件書籍の出版を承諾していないことを知らなかつたのであり、原告の氏名権を侵害するとか、名誉を毀損するとかの認識は全くなかつた。
2 被告山手書房及び被告高瀬に過失がないことについて
一般に、単行本などの出版は、多くの場合、企画プロダクション(エージェント)が著作者とされる者に代わつて執筆編集して出版社に持ち込む方法でされているが、これは、著作者とされる者、企画プロダクション及び出版社の三者の言論、出版界における人間的信頼関係から成り立つているものであり、したがつて、出版社が独自の立場で著作者とされる者から書籍の出版の承諾を得なければならないとすることは、出版社と企画プロダクションとの信頼関係を重ね、出版界の実情に反するものである。
ところで、原告と被告清野は、飲食、遊興を共にするような親密な間柄であつて、将来出版関係の仕事に従事する考えもあつた原告は、飲食の席において、秘書時代に知り得た政治家の私生活について被告清野に口述し、本件書籍の執筆、出版についての話合いもなされていた。そして、被告山手書房は、過去において被告コスモポリタンと数回出版契約を結んで書籍を出版したが何らの問題も起きていなかつたところ、同被告の代表取締役である被告清野から、右1記載のとおり、再三にわたり、同被告と原告とが親密な関係にあること、原告が本件書籍の出版を了承していることなどについて具体的な説明を受け、その結果、真実、原告が本件書籍の出版を承諾しているものと信じて、本件書籍の著作権者であつて、著作権法上本件書籍の複製権を有している被告コスモポリタンとの間で有効に本件出版契約を締結したのである。したがつて、被告山手書房及び被告高瀬には、更に原告につき著作者の出版意思を確認すべき法的義務はなく、原告の氏名権及び名誉権の侵害につき何ら過失はない。
3 名誉権の侵害について
本件書籍の内容は、公的立場にある政治家の公的な面から私的な面までを一般的、比喩的な構成によつて分かりやすく記述した政界の内幕物であり、その内容の大部分は既に種々の雑誌等で公表されているものである。
原告が指摘する別紙(四)記載の各記述は、具体的に原告個人を名指して原告が自らそこに摘示した事実を熟知しているとか、その事実行為を行つたとは文章上断言していない。いずれも、前後の文章と文脈から考えると、単なる一般的、比喩的な文章にしかすぎない。
また、別紙(五)記載の各記述についても、公人として公的、私的行動について批判、批評を受けるべき立場にある政治家についての記述であり、その内容も既に種々の雑誌等で公表されているものであり、しかも、当の政治家本人からは何ら苦情も出されていないのであるから、右各記述が政治家の人格、名誉を誹謗、毀損するものであるとはいえない。
したがつて、原告が本件書籍の著作者であると誤認されることによつて原告の名誉を毀損されるという原告の主張は理由がない。
四 被告コスモポリタン及び被告清野の主張
1 本件書籍の著作に関する事情
(一) 被告清野は、医療分野を中心としたジャーナリストであるが、昭和五六年ころ、同じく医療ジャーナリストである中里憲保(以下「中里」という。)の紹介で、医系議員である福島議員の秘書であつた原告と知り合つた。その際に、原告と被告清野とは、近い将来共同で出版事業を行うことを話し合い、また、原告は、同被告に対し、原告自身も政治家秘書時代の経験を生かした文筆活動をするつもりであると話していた。その後、原告と被告清野は、時折会つて、医療情報等を交換したり、互いに飲食等を接待するなど親密な間柄となつていた。
(二) 本件書籍の企画発案者は小松崎松平であるが、同人から右企画を持ち込まれた被告コスモポリタンの代表取締役である被告清野が昭和五七年六月ころ原告に対して右企画の相談をしたところ、原告は、これを了承し、原告と被告コスモポリタンとの間で、既に週刊誌等で公表されている事実と原告が提供した情報を基に被告清野の責任で原稿を執筆し、原告を主人公と想定した政界の内幕物を出版することを合意した。その際、著作者名については、原告の本名でなければよいということで了解された。
(三) そこで、被告コスモポリタンは、昭和五七年六月以降、本件書籍出版の企画を具体的に進め、昭和五八年六月ころから被告山手書房との間で右出版に関する交渉を行い、被告清野は、原告の意思を再度確認してその了承を得た上、同年七月六日、被告コスモポリタンを代表して、被告山手書房との間で本件出版契約を締結し、その結果、同月二〇日、本件書籍が出版されたのである。
(四)(1) 以上のとおり、被告コスモポリタンの代表取締役である被告清野は、原告から本件書籍出版に関する包括的な承諾を得ているのであるから、本件書籍の出版は原告の氏名を冒用したものではない。
なお、本件書籍のようにいわゆるゴーストライターの執筆にかかる書籍の場合、出版の承諾が包括的になされることが多いのが出版界の実情である。
(2) 仮に本件書籍の出版につき原告の承諾がなかつたとしても、被告清野は、原告が本件書籍の出版につき明確に拒絶の意思を表明しなかつたので、原告との従前の関係から、原告が承諾の意思を有しているものと考えたのであり、したがつて、被告コスモポリタン及び被告清野は、故意に原告の氏名を冒用したものではない。
2 名誉権の侵害について
本件書籍は、政治家という公共の利害にかかわる職業に従事する者に関する記述を内容とするものであり、しかも、その記述の内容は既に週刊誌等で再三公表されているものであつて、原告の名誉に関する記述がなされているわけではないのであるから、原告が本件書籍の著作者と誤認されたとしてもその名誉を毀損されることはない。
3 差止請求について
本件書籍の出版者である被告山手書房は、既に本件書籍の未販売分について自主的に回収して廃棄し、以後増刷出版する意思のないことを表明しており、被告コスモポリタンにおいても独自に本件書籍を印刷、製本、販売、頒布する意思も可能性もないのであつて、本件書籍により新たに原告の氏名権及び名誉権が侵害される危険性は全くないのであるから、原告の差止請求は必要性がない。
五 被告らの主張に対する認否
被告らの主張はすべて争う。
第三 証拠<省略>
理由
一当 事 者
1 請求原因1(一)の事実のうち、原告が明治大学卒業後福島議員の秘書をしていたこと、原告が現在福島病院の事務長として勤務していることは当事者間に争いがなく(原告と被告山手書房及び被告高瀬との間においては、原告の出生地及び出生年月についても争いがない。)、<証拠>を総合すれば、請求原因1(一)のその余の事実を認めることができる。
2 請求原因1(二)の事実は、原告と被告コスモポリタン及び被告清野との間ではすべて争いがなく、原告と被告山手書房及び被告高瀬との間では被告コスモポリタンの営業目的を除き争いがないところ、同被告が書籍、雑誌及び新聞の出版及び販売を営業目的とすることは被告清野本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により認めることができる。
二本件書籍出版の経緯
1 被告山手書房が昭和五八年七月二〇日本件書籍を出版し、本件書籍が国会内書店のほか東京都、埼玉県をはじめ全国の書店で販売されたこと、本件書籍の出版につき、被告山手書房が発行所、被告高瀬が発行者兼被告山手書房の代表取締役、被告コスモポリタンが企画協力者、被告清野が執筆者兼被告コスモポリタンの代表取締役としてそれぞれ関与したことは、当事者間に争いがない。
2 右争いがない事実に、<証拠>を総合すれば、次の各事実を認めることができ<証拠>中右認定に反する部分は採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
(一) 原告は、かつて福島議員のスキャンダル記事が週刊誌に掲載され、原告がこれに抗議したことから右記事を取材した中里と面識があつたが、昭和五五年九月ころ、同人から、被告清野を紹介された。それ以後、原告と被告清野とは、同被告が議員会館に原告を訪ねたり、食事を共にしたりするなどの付き合いをするようになつたが、同被告は、原告との雑談等の中で、同被告は中里を含め七、八人の仲間からなる医療ジャーナリストクラブの一員で、右クラブの仲間は同被告の指示で週刊誌等にスキャンダル記事を書くこと、福島議員の前記スキャンダル記事も同被告が中里に書かせたものであることをほのめかしていた。しかし、原告と被告清野との付き合いは、昭和五六年一〇月ころ、同被告が原告に対して福島議員のスキャンダル記事が公表されないようにするための金員の交付を要求し、原告がこれを拒絶したことから、その後一時途絶した。
(二) ところが、被告清野が昭和五七年四月ころ静岡県医師会長が当時埼玉県医師会長であつた福島議員にあてた紹介状を持つて議員会館に原告を訪ね、以前の非をわびて以前同様に付き合つてもらいたい旨申し出てきたことから、原告は、再び同被告と付き合うようになり、同被告から誘われて飲食や遊興を共にし、その際、その席で議員秘書生活や政界の内情などが話題に上ることもあつた。
(三) 被告清野は、昭和五七年二月ころから、医療機関から掲載料金を取つてその紹介記事を載せる「医療案内」という家庭向け医療情報誌の企画を練つていたが、まず手始めに、埼玉県内の医療機関を対象にした「医療案内埼玉県版」を発行しようと考え、同年五、六月ころ、原告に対し、福島議員及び同県歯科医師会長であり参議院議員であつた関口恵造の右「医療案内」に対する推薦文が欲しい旨申し出た。しかし、原告は、右推薦文の入手について福島議員らへの取次ぎを承諾しなかつたところ、被告清野は、無断で福島議員ら名義の推薦文を掲載した「医療案内埼玉県版」のパンフレットを同県内の各医療機関に郵送してしまつた。このため、福島議員は、同年七月一六日、同人は右推薦文につき何ら関知しない旨を記載した同県医師会長福島茂夫名義の文書を同県内各郡市医師会長あてに送付した。その結果、被告清野は、医療機関からその紹介記事の掲載申込みがなくなり、「医療案内」の企画を断念せざるを得なくなつて、約二〇〇〇万円の損害を被つた。その後間もなくして、被告清野が代表取締役を務める被告コスモポリタンは、「あの福島茂夫議員の第一秘書村田栄のトルコ、クラブ狂い。」というタイトルで始まる原告のスキャンダル記事を掲載した「ニューズ・レター」という医療情報誌を発行し、このことから、原告と被告清野との付き合いは完全に途絶してしまつた。
(四) ところで、被告コスモポリタンでは、昭和五七年同被告と契約している記者の小松崎松平が発案した政界の内幕物の出版企画を検討していたが、被告清野は、同年秋ころ、被告コスモポリタンの代表取締役として、被告山手書房に対し、著作者名を明らかにしないまま、「運転手のブラックノート」と題する議員秘書が書いた政界の内幕物の出版企画を持ち込んだ。
(五) 被告山手書房は、昭和五八年六月三日、右企画の採用を決定し、編集部員の藤尾一雅(以下「藤尾」という。)が右企画の担当者となり、同月五日、同人と被告清野との間で右企画についての打合せがなされたが、この時初めて、被告清野から、参議院議員である福島議員の現役の秘書である原告が右書籍の著作者であることが明らかにされた。ただし、被告清野から、出版前に宣伝広告などで原告が著作者であることが知れわたると出版妨害などのおそれがあるので、しばらくは著作者名を伏せておいてほしい旨の要請があり、被告山手書房は、これを了承したが、出版の際は著作者を実名で出したいとの意向を被告清野に伝え、その方向で原告の説得を続けてもらうことにした。また、制作方法については、著作者である原告自身は執筆することができないので、被告コスモポリタンが選んだライター及び被告清野が原告から提供を受けた情報を基に政界一般の話をも付け加えて執筆することが打ち合わせられた。
藤尾は、このとき以後、再三にわたつて、被告清野から、原告と同被告とは過去に一緒に仕事をしたり、よく飲みに行つたりして非常に親密な関係にあること、及び本件書籍の出版に関しては同被告が一切を任されており、著作権も同被告側が有していることを聞かされた。
(六) その後、原稿締切日が昭和五八年六月二〇日と決められたものの、同日までに原稿が仕上がらず、藤尾は、同日以降、数回、原稿の催促及び受取のために被告コスモポリタンに赴いた。その際、藤尾は、被告清野に対し、原告と被告山手書房との顔合わせの機会を設けてもらいたい旨要請し、その結果、被告清野において原告と連絡が取れたということで、書籍の内容の補足取材も兼ねて同月二四日ころ東京都内の中華料理店で原告、被告山手書房及び被告コスモポリタンの三者で会うことになつた。そして、藤尾と被告清野は、右同日、所定の場所に行つたが、原告は、被告清野から右のように三者で会うことについて連絡も要請も受けていなかつたため、同所に来なかつた。そのため、藤尾と被告清野とは、同被告が翌日原告と会つて補足取材をすることを打ち合わせて別れた。
(七) 藤尾は、昭和五八年六月二七日ころ、脱稿した本件書籍の原稿を受け取るために被告清野と会い、その際、原告とはもう会えないのかどうかを同被告に確認したが、同被告が原告との交渉は自分に任せてほしい旨回答したので、それ以上原告との面会を要求せず、結局、被告山手書房としては、原告が本件書籍の出版を承諾しているかどうかを原告に直接確認しないまま本件書籍を出版することとなつた。
(八) ところで、被告清野と被告山手書房との間では、本件書籍は原告の実名で出版するという前提で編集作業を進めていたが、被告清野は、原稿を印刷に回す直前になつて、被告山手書房に対し、原告が実名で出版することは困ると言つているので実名で出版することは勘弁してもらいたい旨要請した。このため、被告山手書房は、やむなくこれを了承し、結局、被告清野から申出のあつた「村田栄一」という名称を用いて本件書籍を出版することにした。また、これと前後して、被告山手書房は、被告清野から原告の略歴を知らされ、これをそのまま本件書籍の著作者略歴として使用することにした。
(九) かくして、被告山手書房は、昭和五八年七月六日、本件書籍の著作権者である被告コスモポリタンとの間で本件出版契約を締結したが、本件書籍の内容及び著作者と著作権者が異なつていることなどを考慮して、「本件書籍の内容及び著作者にかかわるすべてについて被告コスモポリタン及び被告清野が責任を負い、トラブル等が生じても被告山手書房に一切迷惑をかけない」旨の念書(以下「本件念書」という。)を被告コスモポリタンから徴した。
(一〇) 本件書籍は、昭和五八年七月二〇日、発行者被告高瀬、企画協力者被告コスモポリタンとして被告山手書房から出版され、国会内書店のほか東京都、埼玉県をはじめ全国の書店で販売された。
三そこで、氏名権の侵害の主張について判断する。
1 氏名は人の同一性を示すものとして人格と密着しており、各人は人格権の一種としてこれを他人に冒用されない法律上の利益を有している。ところで、<証拠>によれば、被告の氏名が「村田榮」であることが認められ、一方、本件書籍の著作者名が「村田栄一」で表示されていることは当事者間に争いがなく、本件書籍の著作者名は原告の氏名と表示上完全に一致しているとはいえない。しかしながら、右著作者名は原告の氏名と類似しており、本件書籍の奥書に著作者略歴として「元参議院議員第一秘書。一九四三年一〇月生まれ、埼玉県出身。明治大学卒業。一九七七年より参議院議員秘書となる。現在、埼玉県F病院事務長。」と記載されていることは当事者間に争いがないところ、前記一1で認定した事実と対照すると、右略歴は、原告の経歴と一部は一致し、一部は類似していることが認められ、更に、<証拠>によれば、本件書籍のブックカバー及び表紙には「元参議院議員秘書 村田栄一」と表示されていることが認められること、また、本件書籍中に、著作者が秘書を務めた議員に関し、別紙(五)(10)記載のとおり、「七七年の参議院選全国区から出馬し、一二七万一七三一票の支持を受け、自民党全国区候補としてはトップだつた。一年生議員ではあるが、日本医師会の推薦もあつた」、「今から六年前の参院選に、埼玉県の医師会長であつた」、「元環境政務次官」との記述があることは当事者間に争いがなく、この記述内容から本件書籍の著作者が秘書を務めた元参議院議員は原告が実際に秘書を務めた福島議員であると了解し得ることを合わせ考えれば、本件書籍の著作者名「村田栄一」は、社会通念上原告本人を表示するものと認めるのが相当である。
2 被告コスモポリタン及び被告清野は、原告は当初から本件書籍の出版を承諾しており、しかも、被告清野は最終的に原告の出版意思を確認した上で本件書籍の出版に及んだ旨主張し、被告清野本人尋問の結果中にはその旨供述する部分があるが、右供述部分は原告本人尋問の結果に照らしにわかに採用し難く、他に原告が本件書籍の出版を承諾していたことを認めるに足りる証拠はなく、かえつて、原告本人尋問の結果並びに前示の本件書籍出版の経緯及び後に認定説示する本件書籍の記述内容を総合すれば、原告と被告清野とが飲食を共にするなどの付き合いをしていた当時、政界の内情等が話題に上ることもあつたが、本件書籍のような政界の内幕物を出版するなどの具体的な話が出たことはなく、原告は、被告コスモポリタンが政界の内幕物の出版企画を被告山手書房に持ち込む前に、「ニューズ・レター」に原告のスキャンダル記事が掲載されたことで既に被告清野との付き合いを断絶しており、本件書籍が出版されることを全く知らなかつたことが認められ、結局、原告において、被告清野との付き合いが途絶した後はもちろん、同被告と付き合つていた当時でも、同被告に対し、原告を著作者と表示して本件書籍のような政界の内幕物を出版することを承諾したことはなかつたことが認められる。
3 したがつて、本件書籍は、原告に無断で原告の氏名を著作者として使用して出版されたもので、原告の氏名を冒用し、原告の氏名権を侵害するものであるといわざるを得ない。
四次に、原告の名誉権の侵害の主張について判断する。
1 まず、本件書籍の全体的な構成、内容について検討するに、<証拠>を総合すれば、本件書籍は、題名が「政治家の夜と昼」、副題が「議員秘書のブラック・ノート」というもので、表紙及びブックカバーに表示された著作者名には元参議院議員秘書という肩書が付され、元参議院議員秘書が著作した政界の内幕物の体裁を有するものであること、実際に本件書籍の記述は、元参議院議員秘書が自己が秘書を務めた議員及び政界一般の内幕的事実について伝聞を交えながら包み隠しなく記述した構成になつていること、本件書籍で記述された内容のうちには、既に週刊誌等で公表されているものもあるが、右議員に関する具体的記述の中には同人の秘書を務めた著作者のみが知り得た事実として記述されているものがあり、その中には右議員のスキャンダルに属する記述もあることが認められる。
そして、本件書籍の著作者名「村田栄一」が社会通念上原告本人を表示するものと認められること、本件書籍の記述内容は著作者が秘書を務めた元参議院議員が福島議員であることを了解させるに足りるものであることは、いずれも前示のとおりである。
2 請求原因2(三)(1)の名誉毀損の主張について
本件書籍に別紙(四)記載の各記述のあることは当事者間に争いがないので、以下、右各記述が原告の名誉を毀損するものであるか否かについて個別に検討する。
(一) 別紙(四)(1)記載の記述について
<証拠>によれば、別紙(四)(1)記載の記述(以下「本件(四)(1)の記述」という。)は、「仕えている代議士しだい オヤジの名刺で私腹を肥やす」という見出しで始まる議員秘書の利権について記述した文章の一部としてなされていることが認められるが、<証拠>によれば、過去に議員秘書が国会内でピストルを売買して問題になつたことがあること(このことは、本件書籍中でも、本件(四)(1)の記述の一二ページ後に具体的に記述されている。)、本件(四)(1)の記述は過去に議員秘書が起こした事件を踏まえながら議員秘書の利権について誇張的に表現したものであることが認められる。そして、本件(四)(1)の記述を読んだ一般読者は、前後の文脈から判断して、右記述は議員秘書の利権について比喩的、誇張的に表現したものであることを理解できるものと認められ、このような記述がなされたからといつて、直ちに、議員秘書である原告がピストルの売買やテロ行為をすることができるかのように誤解され、その名誉を毀損されるものとは認められない。したがつて、この点に関する原告の名誉毀損の主張は理由がない。
(二) 別紙(四)(2)記載の記述について
<証拠>によれば、別紙(四)(2)記載の記述(以下「本件(四)(2)の記述」という。)は、「危険な金儲け 失敗したら一人でクサい飯を食え」という見出しで始まる文章中において、議員秘書を通じて動く五〇〇〇万円から二億円という選挙資金は領収書などのない法定外資金であるためこれを「もともと存在しない金」であると表現したくだりに続いて改行の上記述されていること、本件(四)(2)の記述に続いて「それはもう、とにかく人間の″業″というものだ。私たちの世界では、これを『真理』という。」という記述がなされ、更に改行して「ただしかし、こうした″危険手当″は、失敗すれば私たち自身が尻ぬぐいをしなければならぬことは、社会的ステータスの高い″社会人″である議員秘書として当然の義務である。」という記述がなされていること、本件(四)(2)の記述は、原告が選挙資金を着服したことは文章上断言しておらず、かつ、議員秘書一般の話と混交させながら記述されていることが認められるが、本件(四)(2)の記述は、その表現方法及び前後の文脈から判断して、これを読んだ一般読者に対して原告が選挙資金を着服したことを暗示するものと認められる。
(三) 別紙(四)(3)記載の記述について
<証拠>によれば、別紙(四)(3)記載の記述(以下「本件(四)(3)の記述」という。)は、「楽しく金の入る職業 国会議員は三日やつたら辞められない」という見出しで始まる文章中において、福島議員の就職あつせん及びそのあつせんは実際には原告が行うことを記述した後、改行して「就職の斡旋は秘書にとつてウマ味がある。先生にいちいち報告するわけでもなく、自分の判断でオヤジの名を使い、斡旋する。この時の礼金は、国からもらう給料より高額だ。」という記述がなされた後に記述されていること、本件(四)(3)の記述に続いて「コジキと秘書は三日やつたら辞められない。最も国会議員も三日やつたら辞められない。これほどもうかる商売は他にない。というより、楽しく金の入る職業も他にないというべきか。」という記述がなされていることが認められる。本件(四)(3)の記述は、右のように、本件(四)(2)の記述と同様、議員秘書一般の話と混交させながら記述されているものの、前後の文脈から判断して、一般読者に対して原告が就職あつせんの謝礼金を着服していることを認識させるに足りるものと認められる。
(四) 別紙(四)(4)ないし(6)記載の各記述について
<証拠>によれば、別紙(四)(4)ないし(6)記載の各記述(以下「本件(四)(4)ないし(6)の各記述」という。)は、いずれも、「センセイ代理のうまみ 銀行融資の口きき料五〇万円」という見出しで始まる文章中においてなされていること、本件(四)(4)の記述は、「今日はセンセイの代わりに都内S署に行く。理由は駐車違反のモミ消し。いつもながら馬鹿な話だと思うのだけれど……。」というくだりに続いて改行の上記述されていること、本件(四)(5)の記述は、「先日は親しくしている『S県の大病院の脱税のモミ消し。県の税務署長にあいさつに行き、脱税額の追徴金を半分にまけてもらう。残り半分の額を礼金として預かる。』(『』内が本件(四)(5)の記述)センセイを自宅(赤坂)に送つて行く車の中で渡す。」という形で記述されていること、本件(四)(6)の記述は、「モミ消しては謝礼をもらう。まつとうな職業とは思われないが、いつしかわれわれも、そのことに慣れてしまう。今日の夜あたりは、クラブのママが遊びに来るだろう。先生も離婚して独身だから、気楽なもんだ。それにしてもモミ消し料の一部をくれたことがない。だからというわけでもないが、『融資の口利きで入つた五〇万円は、自分のポケットに入れておく。』(『』内が本件(四)(6)の記述)それにしてもよく融資が決まつたものだと驚く。」という形で記述され、その後改行の上原告が福島議員を代理して融資のあつせんをして謝礼金五〇万円を受け取つたことを記述していることが認められる。右認定事実によれば、本件(四)(4)ないし(6)の各記述は、その記述内容及び前後の文脈から判断して、原告が当該行為を行つたものとして記述されていることは明らかである。
(五) 右(二)ないし(四)の認定によれば、本件(四)(2)ないし(6)の各記述により、原告は、その名誉を毀損されたものと認めるのが相当である。
3 請求原因2(三)(2)の名誉毀損の主張について
本件書籍は、前示のとおり、元参議院議員秘書の原告が自己が秘書を務めた福島議員及び政界一般の内幕的事実について伝聞を交えながら包み隠しなく記述した構成になつている政界の内幕暴露物で、自己が秘書を務めた議員に関する具体的記述の中には同人の秘書を務めた著作者のみが知り得た事実として記述されているものがあり、かつ、その中には右議員のスキャンダルに属する記述もあるほか、別紙(五)記載のような各議員についてのスキャンダルに属する各記述もある(右各記述があることは当事者間に争いがない。)。右のような本件書籍の一般的性格及び具体的記述内容にかんがみれば、その記述内容の真偽はともかくとして、通常人の標準的な価値観からすれば、著作者である原告は、議員秘書を退任した直後に自己が秘書を務めた福島議員のスキャンダルを含め秘書時代に知り得た事実を平気で暴露する人間であり、また、国会議員等第三者を誹謗する事実を平気で面白おかしく書き立てる人間であるという評価を受けることは明らかであるから、原告は、本件書籍に著作者として表示されたことにより、その品性、徳行、名声、信用等その人格に対する社会的評価が損なわれ、その名誉を毀損されたものと認めるのが相当である。
4 以上のとおりであつて、本件書籍の出版によつて原告の名誉が毀損された旨の原告の主張は、右認定説示した限度で理由があり、これに反する被告らの主張は採用することができない。
五被告らの責任
1 被告コスモポリタン及び被告清野の責任
(一) 原告が本件書籍の出版について全く知らず、被告清野に対して原告を著作者と表示して本件書籍のような政界の内幕物を出版することを承諾したことがなかつたことは前示のとおりであるところ、さきに認定説示した本件書籍出版の経緯にかんがみれば、被告清野は、原告が本件書籍の出版を承諾していないことを知りながら、被告コスモポリタンの代表取締役として、原告の氏名を冒用して著作者と表示し、原告の名誉を毀損するような内容の本件書籍の出版を企画して、これを被告山手書房に持ち込み、かつ、自ら執筆者となつて本件書籍の出版に関与したものと認めるのが相当であるから、被告コスモポリタン及び被告清野は、本件書籍の出版による原告の氏名権及び名誉権の侵害につき不法行為責任を負うものといわざるを得ない。
(二) 被告コスモポリタン及び被告清野は、被告清野と原告との従前の関係及び原告が本件書籍の出版につき明確に拒絶の意思を表明しなかつたことから、原告がこれにつき承諾の意思を有しているものと考えた旨主張する。しかしながら、被告清野が原告を著作者と表示して本件書籍のような政界の内幕物を出版する企画について原告に相談したことのないことは前示のとおりであるから、被告コスモポリタン及び被告清野の前記主張は採用することができない。
2 被告山手書房及び被告高瀬の責任
(一) 原告は、被告山手書房及び被告高瀬は原告が本件書籍の著作者でなく、本件書籍の出版を承諾したことがないことを知りながら、被告コスモポリタン及び被告清野と共謀して本件書籍の出版に及んだ旨主張するが、本件全証拠によつてもこれを認めるには足りない。
(二) そこで、被告山手書房及び被告高瀬の過失の有無について検討する
(1) 本件書籍は、被告コスモポリタンが出版を企画して被告山手書房と本件出版契約を結び、被告清野らが著作者とされる者に代わつて執筆して、被告山手書房において出版に及んだものであるが、このような形態で書籍の出版がなされる場合に、出版社など出版に当たる者が常に著作者の出版意思あるいは著作者として表示される者の著作者として表示されることを承諾する意思(以下、これらを総称して「著作者の出版意思」という。)を確認しなければならないかについては問題のあるところであるけれども、前記認定のように、本件書籍は、元参議院議員秘書である原告の実名と同視できる著作者名を表示して出版された政界の内幕物であり、その記述中には前示のとおり著作者と目される原告の品性、徳行、名声、信用などその人格的価値に対する社会的評価を損ない、その名誉を毀損する内容の記述が含まれており、これを出版した場合原告の名誉を毀損することは明らかであつたのであるから、少なくとも、このように著作者と目される者の名誉を毀損することが明らかな書籍を出版しようとする者は、たとえ出版企画を持ち込んで出版契約を結んだ者がその書籍について著作権を有している場合であつても、著作者と目される者が明らかに当該書籍の出版を承諾しているものと考えるのが相当な特段の事情の認められない限り、著作者と目される者につき直接その出版意思を確認し、著作者の意に反して当該書籍を出版してその氏名権及び名誉権を侵害することのないように注意すべき義務があるものと解するのが相当である。
(2) ところで、本件書籍の出版につき被告山手書房が原告に直接その出版意思を確認しなかつたことは前示のとおりであるから、同被告において原告が明らかに本件書籍の出版を承諾していたと考えるのが相当な特段の事情があつたか否かについて検討するに、被告山手書房は、本件書籍の出版企画を持ち込んだ被告コスモポリタンの代表取締役である被告清野から、原告と同被告とは過去に一緒に仕事をしたり、よく飲みに行つたりして非常に親密な関係にあり、本件書籍の出版に関しては同被告が一切を任されており、著作権も同被告側が有していることについて再三説明を受けていたこと、被告山手書房は被告清野に要請して原告との顔合わせの機会を設けてもらつたが、原告が出席しなかつたためその目的を達せられなかつたこと、その後再度原告と会えないかどうか被告清野に確認したが、同被告から原告とのことは同被告に任せてもらいたい旨回答を受けてそれ以上原告との面会を要求せず、被告コスモポリタンから本件書籍及び著作者にかかわるすべてについては同被告及び被告清野が責任を負う旨の本件念書を徴した上、原告に直接本件書籍の出版を承諾しているかどうかを確認しないまま本件書籍の出版に及んだことは前示のとおりであり、更に、証人藤尾の証言によれば、被告山手書房と被告コスモポリタンとの間において過去に本件書籍の出版と同様の形態で書籍を出版したことがあるが、何ら問題を生じなかつたことが認められる。
しかしながら、元議員秘書が退任直後実名と同視し得る著作者名を表示して政界の内幕を暴露するという、前記のような本件書籍の特異な体裁や記述内容に加えて、証人藤尾の証言によると、出版打合せの際、被告清野が原告から預かつている日誌のような秘密資料に基づいて執筆する旨話したので、藤尾が再三その資料を見せてもらいたい旨要求したが、結局、同被告から提示がなかつたことが認められること、更に、前示のとおり、被告山手書房は、本件書籍の原稿を印刷に回す段階になつて被告清野から原告が実名で出版することは困ると言つている旨聞いていることをも考えると、前記の事実によつては、いまだ被告山手書房において原告が明らかに本件書籍の出版を承諾していたと考えるのが相当な特段の事情があつたとは認め難く、他に右特段の事情があつたことを認めるに足りる証拠はない。
そうすると、被告山手書房には本件書籍の出版による原告の氏名権及び名誉権の侵害につき過失があつたものといわざるを得ない。
次に、被告高瀬が被告山手書房の代表取締役であり、本件書籍の発行者となつていることは前示のとおりであるところ、証人藤尾の証言によれば、被告高瀬は、本件書籍の出版企画の採用に関与し、その後右企画の進行状況について社員から具体的な報告を受け、藤尾が原告と顔合わせの機会を持つたが結局原告と会えなかつたことも知つており、また、被告山手書房が被告コスモポリタンから本件念書を徴したのも被告高瀬の指示によるところが認められ、右事実によれば、被告高瀬も、被告山手書房が原告に直接本件書籍につき出版意思を確認していないことを知つていたものというべきところ、被告高瀬につき前記特段の事情を認めるに足りる証拠はないから、同被告も、本件書籍の出版による原告の氏名権及び名誉権の侵害につき、被告山手書房と同様の過失があつたものというべきである。
(3) 以上のとおりであるから、被告山手書房及び被告高瀬は、本件書籍の出版による原告の氏名権及び名誉権の侵害につき不法行為責任を負うものといわねばならない。
六差止請求について
1 前記三及び四で説示したとおり、本件書籍の出版は原告の氏名権及び名誉権を侵害するものであるが、氏名権及び名誉権はいずれも人格権の一種として、これを侵害された者は、それぞれの権利それ自体に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができる場合があると解されるところ、本件は、原告の氏名を冒用することを通じて同時にその名誉を毀損するものであり、その権利侵害の態様にかんがみれば、原告は、本件書籍の発行所である被告山手書房及び本件書籍の著作権者で、本件書籍の出版を企画して同被告と本件出版契約を結んだ被告コスモポリタンに対し、本件書籍の印刷、製本、販売及び頒布の禁止を求める権利を有するものというべきである。
2 被告コスモポリタンは、本件差止請求の必要性がない旨主張し、<証拠>によれば、原告は、被告山手書房及び被告高瀬に対し、昭和五八年七月二五日到達の内容証明郵便により、原告は本件書籍の出版に何ら関与したことはないとして本件書籍の販売中止等を請求し、その後右両被告を債務者として東京地方裁判所に本件書籍の頒布等の中止を求める仮処分を申請したところ、被告山手書房は、これらを受けて本件書籍の販売を任意に中止し、その結果、同年一〇月七日、前記仮処分申請は保全の必要性について疎明がないとして却下されたことが認められる。しかしながら、<証拠>及び証人藤尾の証言によれば、被告山手書房が本件書籍の販売を中止したのは裁判によつて最終的決着がつくまでという暫定的な措置であり、被告山手書房は、本件書籍の原稿を現在も保管し、印刷のための版も保存していることが認められ、右認定事実によれば、現在被告山手書房が本件書籍の販売を任意に中止しているからといつて、直ちに、本件書籍の販売等の差止めを求める必要性がないとはいえない。
七慰謝料及び謝罪広告掲載請求について
1 <証拠>によれば、原告は、昭和五八年七月福島議員の秘書を退任した直後に本件書籍が出版されたことで、原告が本件書籍を執筆したのではないかと福島議員はじめ国会議員、議員秘書時代の友人、福島病院所在の地元の人々らに疑われ、地元の人々からは毎日のように自宅や勤務先に非難の電話を掛けられ、議員秘書時代の交遊関係にも悪影響が出たことが認められ、右事実にその他これまで認定説示してきたところを総合すれば、原告が本件書籍の出版により多大な精神的苦痛を被つたことは十分に推認することができる。そして、本件に顕れた一切の事情を考慮し、かつ、本件においては後記のとおり謝罪広告の掲載を命じることによつて原告の名誉は相当に回復され、その精神的苦痛も相当程度慰謝されることを勘案すれば、原告の右精神的苦痛に対する慰謝料としては一〇〇万円が相当であると認められる。
2 また、本件書籍の出版が原告の名誉を毀損するものであることは前記四で説示したとおりであるところ、原告の氏名を冒用することを通じてその名誉を毀損するというその権利侵害の態様及び本件書籍は全国に販売されたものであることその他本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、原告の名誉を回復するためには、被告らに対し、別紙(二)―一記載の謝罪広告を朝日新聞朝刊に別紙(二)―二記載の掲載条件で一回掲載することを命じるのが相当である。
八結論
以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告山手書房及び被告コスモポリタンに対し、本件書籍の印刷、製本、販売及び頒布の禁止を、被告らに対し、各自、慰謝料一〇〇万円及びこれに対する不法行為の日である昭和五八年七月二〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払並びに別紙(二)―一記載の謝罪広告を朝日新聞朝刊に別紙(二)―二記載の掲載条件で一回掲載することを、それぞれ求める限度で理由があるから、右限度でこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官石井健吾 裁判官木下秀樹 裁判官増田 稔)
別紙(一)
書籍目録
題 名 政治家の夜と昼
―議員秘書のブラック・ノート―
著 作 者 村 田 栄 一
発 行 者 高 瀬 広 居
発 行 所 株式会社 山手書房
発行年月日 昭和五八年七月二〇日
型 式 タテ一九センチメートル、ヨコ一三センチメートル、二一四ページ
定 価 九八〇円
別紙(二)―一
謝罪広告
私どもは、昭和五八年七月二〇日、著作者名を元参議院議員秘書村田栄一、書名を「政治家の夜と昼―議員秘書のブラック・ノート」とする書籍を出版、販売いたしましたが、右著作者名は実在する元参議院議員秘書村田榮殿の氏名と酷似するものであり、同氏の名誉、信用を著しく毀損し、同氏に多大なご迷惑をおかけいたしました。
しかし、同氏は右書籍の出版とは一切関係のないものでありますので、ここに同氏に対し、衷心よりおわび申し上げ、深く謝罪の意を表します。
株式会社山 手 書 房
高 瀬 広 居
株式会社コスモポリタン
清 野 富 夫
村 田 榮殿
別紙(二)―二
掲載条件
掲載場所及び大きさ 社会面第一〇、一一段二段抜き
活字 見出し並びに原告及び被告名は一・五倍活字、本文は一倍活字
別紙(三)―一
謝罪広告
当社は、昭和五八年七月二〇日、著者元参議院議員秘書村田栄一の表示で、政治家の夜と昼―議員秘書のブラック・ノートと題して書籍を販売しましたが、右書籍に表示した著者は実在する元参議院議員秘書村田榮殿と酷似する表示であり、同氏に多大なるご迷惑をおかけいたしましたが、同氏の氏名を冒用したもので、同氏は本書の発行とは一切関係のないものであります。
ここに、村田榮殿及び本書に書かれた関係者各位の名誉、人格、信用を著しく毀損したことについて衷心よりお詫び申し上げ、深く謝罪の意を表します。
株式会社山 手 書 房
高 瀬 広 居
株式会社コスモポリタン
清 野 富 夫
村 田 榮殿
別紙(三)―二
掲載条件
大きさ 二段抜き
活 字 見出し並びに原告及び被告名二倍活字、本文一倍活字
掲載場所 社会面第九、一〇段
別紙(四)
(1) あたかも、議員秘書である原告ができるかのように、「議員会館内でピストル売買」や、「世間をアッといわせる『テロ行為』もできる。」と虚偽の表示を行つた(本件書籍二四ページ四行目、五行目―以下同じ。)。
(2) あたかも、原告が選挙資金を着服したかのように、「『もともと存在しない金』を私が着服したつて 何の罪になる? (中略)この金を戴かない手はない。」と虚偽の表示を行つた(四〇ページ二行目から四行目まで)。
(3) あたかも、原告が就職あつせんの謝礼を着服したかのように、「給料は全部妻に渡して、自分は礼金などの謝礼で遊ぶ。」と虚偽の表示を行つた(一三九ページ四行目、五行目)。
(4) あたかも、原告がクラブのママの駐車違反のもみ消しをしたかのように、「親しくしているクラブのママの白いベンツが駐車違反でレッカー車で持つていかれた。さつそく署長に会い、モミ消してもらう。いままで何度、交通違反のモミ消しをやつたことか」と虚偽の表示を行つた(二〇〇ページ一行目、二行目)。
(5) あたかも、脱税のもみ消しをしたかのように、「S県の大病院長の脱税モミ消し。県の税務署長にあいさつに行き、脱税額の追徴金を半分にまけてもらう。残り半分の額を礼金として預かる。」と虚偽の表示を行つた(同ページ四行目、五行目)。
(6) あたかも、融資の口利きで五〇万円を取得したかのように、「融資の口利きで入つた五〇万円は、自分のポケットに入れておく。」と虚偽の表示を行つた(二〇一ページ一行目)。
別紙(五)
(1) 川部美智雄氏に対し、「川部美智雄も、一九七九年のグラマン事件で、フィクサーとして名前があがつたが、七月の衆院航空特別委員会で『犯罪容疑なし』の結論が出た。仮に川部が『岸信介秘書』でなかつたとしたら、『無罪』になつただろうか。」(二三ページ一二行目から一四行目まで)
(2) 社会党代議士横山利秋氏らに対し、「社会党代議士・横山利秋は、サラ金業者からいまでも月五万円ずつ献金を受けているという。横山一人でなく、通産省閣僚経験者と大蔵省閣僚経験者は、サラ金業者からブラックマネーを受け取つている。」(六七ページ三行目から五行目まで)
(3) 高田静男氏に対し、「高田秘書でさえも、私が見る限り″秘書の顔″だ。決して″センセイの顔″ではない。」(八二ページ四行目)、「高田秘書の″ヨイショ″は続く。」(同ページ一三行目)
(4) 上和田義彦に対し、「秘書団の結束が一番悪いのは中曽根派、といわれ続けてきたくらいだ。親分からして″風見鶏″と名付けられる人だけに、秘書たちも不安が多いはずだ。」(九一ページ六行目から八行目)
(5) 中曽根康弘氏に対し、青山学院青木教授事件に関連し、「その大物代議士は、青山学院の裏口入学にもかかわつていた。ズバリ『中曽根康弘』という名も上がつた。中尾代議士が中曽根派に属する人だから、そう見られたのだろうか。いずれにしろ、政界にいる者ならば、中曽根と青山学院は切つても切れない関係にある、と考えている。」(一三六ページ一五行目から一三七ページ二行目まで)
(6) 小宮山代議士もしくは鴨田代議士に対し(埼玉県のKというイニシャルをもつ代議士は、当時この二名しかいない。)、「埼玉県のK代議士は、埼玉医科大学に顔が利く。マスコミに一度も報道されたことはないが、何度も裏口入学を斡旋してきた。」(同ページ一二行目、一三行目)、「埼玉のK代議士だつて、毎年かなりの数の生徒を埼玉医科大学に入れてやつている。そのたびに一人当たり何千万円かの礼金をポケットに入れる。それが何年も続いているのだ。」(一三八ページ四行目、五行目)
(7) 宮沢喜一氏、河本敏夫氏、浜田幸一氏、鳩山邦夫氏、相沢英之氏らに対し、「宮沢喜一の女好きは有名だね。新橋芸者のMとか銀座ホステスのT子とかね。隠し子もいる、ともつぱらの噂。女グセだけでなく、宮沢は酒グセが悪い。ベロンベロンに酔つ払つて、いつも秘書に担いでもらつて帰る。いまでは『笑わん殿下』などといわれている河本敏夫も、一時期は、酒グセが悪かつたね。酒豪と思われている浜田幸一は、酒はダメ。その分、女をやりまくつている。『弾丸なき抗争』で<尊敬する四人の女性たち>などと気取るなら、<オレの愛した女たち>として、男らしく白状すればいいんだ。ハマコウは、最近インポテンツだという噂だよ。若さにまかせて、好きモノと、とかくの評判は鳩山邦夫代議士。あんないいカミさんがありながら、年増女に手を出してみたり、銀座のYママとカーセックスしたりと、びつくりするくらいお盛んらしい。相沢英之代議士の女好きも有名。女優を女房にしながら、北海道に遊説に行つて、一日中、行方不明になつた。あとで調べてみると、タレントといちやついていたことが判明したらしい。奥さんも漫才師と遊んでいる現場を見られたというから、どつちもどつち。美男美女はとかくゲテモノがお好きらしいね」(一四〇ページ一二行目から一四一ページ九行目まで)
(8) 岸信介氏に対し、「インドネシア賠償からソウル地下鉄、航空機導入と、あまたの『疑惑』に岸の名がとりざたされながらも、ついに追及の外に身を置くことができたのは、この″濾過器″ゆえではなかつたか。」(一四四ページ六行目から八行目まで)
(9) 中村長芳氏に対し、「『中村長芳濾過器説』は、政界関係者の間に依然、根強い。」(同ページ九行目)
(10) 福島茂夫氏に対しては、一五二ページから一七六ページまでのほとんどすべてが同氏に対する誹謗中傷である。
なお、福島茂夫の名称は直接表示されていないが、「七七年の参議院選全国区から出馬し、一二七万一七三一票の支持を受け、自民党全国区候補としてはトップだつた。一年生議員ではあるが、日本医師会の推薦もあつた」(一六七ページ九行目、一〇行目)「今から六年前の参院選に、埼玉県の医師会長であつた」(一七四ページ四行目)、「元環境政務次官」(二〇八ページ一一行目)とのそれぞれ真実を摘示した文章によつて、そのすべてに該当する人物は日本国においてただ一人福島茂夫以外にない。従つて、右の各表現は福島茂夫そのものの表現に他ならないのであつて、氏名そのものを特定表示しなくとも本人そのものが認識される表現であれば氏名の表現と考えて十分である。
(11) その他、佐藤文生代議士、越智通雄代議士、山口敏夫代議士、森下泰議員らに対し、「銀座ホステスと浮名を流している」(一五七ページ八行目、九行目)とか、「帝国ホテルで銀座ホステスと楽しんでいたらしい。」(同ページ一二行目)